主体的不均衡の推移確率分布の計算

\(\hat \Pi_t (z:z_0)≡\hat Pr (z_t≦z:z_0)\) \(t=1,2,3,…\)

を求める。

第6章への数学付録(a)

不均衡動学の理論(岩井克人)

\(\hat \Pi_1 (z:z_0)\) の計算

まず、第0期から第1期にかけての推移確率分布
\(\hat \Pi_1 (z:z_0)≡\hat {Pr} (z_t≦z:z_0)\) 
を計算する。

\(z_0+Δ\log w_0^*≦z\)の確率と

\(Δ\log w_0^*≦z-z_0\)の確率は同じ。

この確率は、\(\hat \Omega (z-z_0)\)で計算できる。

ここで、\(\Omega(\cdot)\)は\(Δ\log w_t^*\)の確率分布関数。

\(\hat \Omega(x)≡\hat Pr \{ Δ\log w_t^*≦x\}\)

主体的不均衡\(z\)は決して\(θ_-\)以下になることがないから
\(z<θ_-\)の範囲である限り、
\(z_1<z\)である確率は0である。

\(zがθ_- ≦z<θ_0\)の範囲であるときに\(z_1が≦zである\)確率は、

\(z_0+Δ\log w_0^*≦z\)であるが
\(z_0+Δ\log w_0^*<θ_-\)ではない確率に等しい。

これは、\(\hat\Omega(z-z_0)-\hat\Omega(θ_- -z_0)\)として計算することができる。

\(zがθ_0≦z≦θ_+\)の範囲であるときに
\(z_1が≦z\)である確率は、

\((z_0+Δ\log w_0^*)≦z\)であるか
\(θ_+ < (z_0+Δ\log w_0^*)\)である確率に等しい。

これは、\(\hat\Omega(z-z_0)+1-\hat\Omega(θ_+-z_0)\)として計算することができる。

最後に、主体的不均衡は決して\(θ_+\)以上になることはないのだから、

\(zがz>θ_+\)の範囲の数であるときの\(z_tが≦zである確率は1\)となる。

以上をまとめると

(A6-1)
\(
\hat \Pi_1(z:z_0)=
\begin{cases} 0 & :z<θ_-\\
\hat\Omega(z-z_0)- \hat \Omega(θ_- -z_0) & :θ_-≦z<θ_0\\
\hat\Omega(z-z_0)+1-\hat \Omega(θ_+ -z_0) & :θ_0≦z<θ_+\\
1 & :z>θ_+
\end{cases}
\)

\(\hat \Pi_t (z:z_0)\) の計算

主体的不均衡がt期間かけて\(z_0\)から出発して\(z_t\)に推移する経路は、まず\(t-1\)期間かけて\(z_0\)から任意の中継点\(z_{t-1}\)へと推移する経路と、さらに1期間かけてこの\(z_{t-1}\)から\(z_t\)へと推移する経路に分解することができる。

最初に\(z_0\)から\(z_{t-1}\)へと推移する経路の累積確率は
\(\hat\Pi_{t-1}(z_{t-1}:z_0)\)と表される。

さらにこの\(z_{t-1}\)から\(z_t\)へと推移する経路の累積確率は、上の(A6-1)で計算された1期間の推移確率分布をもといると\(\hat\Pi_{t-1}(z_{t}:z_{t-1})\)としてあらわされる。

中継点である\(z_{t-1}\)は任意であるから、ありとあらゆる\(z_{t-1}\)についてそれを経由する隔離とを計算して集計(積分)すると、\(z_0\)から出発して\(z_t\)に推移する確率に関して次の関係式を導くことができる。

(A6-2)
\(\displaystyle
\hat \Pi_t(z:z_0)=
\int_{θ_-}^{θ_+} \hat \Pi(z:y) d \hat \Pi_{t-1}(y:z_0)
\)

まず、(A6-1)で\(\hat \Pi_1(z:z_0)\)を計算し、
以降は(A6-2)にしたがって順繰りに
\(\hat \Pi_2(z:z_0)\)、\(\hat \Pi_3(z:z_0)\)、・・・を計算していけば、
原則的にはすべての期間いわたる推移確率分布\(\hat \Pi_t(z:z_0)\)を計算することができる。

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